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Channel: 崔吉城との対話
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海水の味は?

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 新著を出して1ッカ月になろうとしている。売れ行きが良いのはネットでわかる。そろそろ感想や反響が出ても良いのではないかと気になる。今のうちは数人の知人の誠意ある感想しかない。しかし私が住んでいる所では意外にその反響は微々たるものである。なぜであろうか。それは本題にある「慰安婦」「真実」という単語の所為であろう。それは火種であることを指す。日韓の喧嘩と論争、我々と敵の彼我の対立、味方と敵対の間にある核であろうという先入観や識見が横たわっているからであろう。慰安婦の真実を知りたがらない群集心理もあるだろう。しかし本書は日本帝国の臣民であった人の日記を真面目に読んだものにすぎない。その人、その日記に書かれているところの真実に過ぎないかという意見がある。そうかもしれない。しかし日本帝国の枠中の真実であろう。海水の味を知るために全海水を飲まないといけないのかと反論したくなる。

 


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 今日は月曜日。
 通常は青山繁晴さんの「虎ノ門ニュース」書き起こしの日ですが、今週、青山さんは海外出張中につき、残念ながら番組不参加でした。

 そこで、今日は趣向を変えて、最近私が読んだ本の感想を。
 3冊分、一気に行きます~(^_^;

※表紙の画像はいずれもクリックすると拡大表示されます。

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「小池劇場」の真実(有本香 著)

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 今年6月上旬に出版された「『小池劇場』が日本を滅ぼす」の文庫版。
 有本さんのトーク同様、切れ味鋭い文体で、あれよあれよという間に引き込まれます。

 実は、最初に単行本となって出版された時、買うつもりでいました。
 が、読みかけの本が手元にたくさんあったので(今もありますが)、「そのうち買って読もう」と思っているうちに、ずるずると時が過ぎてしまって…。

 単行本が出た後の、小池百合子さんをめぐる動きは、まさにジェットコースターのようでしたね。
 都議選圧勝、希望の党の結党、総選挙での惨敗…。

 小池さんへの興味をなくしかけていたところにスピード文庫化。
 今読まずしていつ読むのか!ということで、今度は迷わず購入しました。

 小池百合子さんは今は東京都知事に専念してるから、大阪府民の私にはあまり関わりのない人になったようにも見えます。
 が、今後、また国政に戻ってきたり、何らかの形で国政に関わってくることもあるでしょう。
 それに備えるためにも、この本は読んでおくべきだと思いました。
 実際、私の中で小池百合子という政治家(政治屋?)を総括する、大変貴重な機会となりました。

 「小池劇場」には3点の「ないない尽くし」があると、有本さんは言います。

 ・これといった演目(ビジョン・政策)がない。
 ・正規の手続きがない。
 ・ファクト(事実)に基づくロジック(論理)がない。

 私はよく知りませんでしたが、「豊洲への移転について市場内の合意が形成されるまでの年月は長く、壮絶なものだった」そうです。
 賛成派と反対派の気持ちが、石原慎太郎都知事(当時)の配慮もあってようやくひとつになったのに、小池さんは「自身の『感性』での決断一つで、この人たちを分断と不安のなかに落とし放置」していると。

 読み進めるうち、小池さんが鳩山由紀夫元首相とだぶって見えてきました。
 普天間基地の移設先を「最低でも県外」と突然言って、問題をややこしくしたのと似ているなと。

 もちろん悪いのは小池さんだけじゃありません。
 「小池劇場」に乗っかったメディアも共犯です。

 「メディアが広めた豊洲のウソを正す」の項で、有本さんは読者にこう呼び掛けています。

【マスメディアが広めた10項目のウソに基づくストーリーについて、公開されている資料を使って正解を挙げていく。読者の皆様には、これを一人でも多くの人に知らせ、豊洲や市場関係者が被った風評被害を減らすことにご協力いただきたい】

 とはいえ、「正解」の部分までここに引用してしまうと、本が売れなくなってしまう恐れもあるので、「ウソ」の部分だけ引用しておきます。

《小池劇場で広められた市場問題のストーリー》
 ①汚染があって市場には不適切な豊洲という土地に
 ②石原慎太郎が利権のために強引に移転を決め
 ③高い値段で土地を買い
 ④土壌汚染対策と建物の工事費に多額の費用をかけたにもかかわらず
 ⑤まだ、地下水のベンゼンの濃度は高く
 ⑥床の下には盛土がなく、「謎の空間」が広がっていた
 ⑦これら一切を石原さんと一緒に進めてきたのが「ドン」率いる都議会自民党である
 ⑧豊洲市場は今もまだ安全だとは言えない施設で
 ⑨そんなものに6000億円もの税金が使われた
 ⑩こうした間違いを小池さんが丁寧にチェックしている

 これら10項目の「ウソ」を、有本さんが1つ1つ正していってくれています。

 メディアが本来の役割を果たしていれば、東京都もここまで酷くはならなかっただろうに…。
 どうか有本さんのこの声を真摯に受け止めてほしいものです。

【報道に携わる者は、何よりも「事実」に誠実に向き合わなければならない。政治を監視するのは「メディア」ではなく、有権者だ。メディアはその有権者の監視に有用な「事実」を提供する媒体に過ぎない、という謙虚さを忘れてはいけない】

 これは、未だに尾を引いている「森友・加計」についても言えることですよね。

 「小池劇場」で広められたストーリーについて、特に、大ざっぱな情報しか入ってこない関西では、未だに信じている人が大半のように思えます。
 東京の皆さんはどうなのでしょうか。
 もしまだ信じている人が皆さんの近くにいるようなら、是非お勧めしていただきたい本です。
 
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朝鮮出身の帳場人が見た 慰安婦の真実―文化人類学者が読み解く『慰安所日記』(崔吉城 著)

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 戦時中、日本軍の占領地であったビルマ、シンガポールで慰安所の帳場人をしていた朝鮮人、朴氏が残した日記。
 広島大学名誉教授で東亜大学教授の崔吉城氏が、その日記の記述を紹介しつつ、丁寧に解説しています。

 戦後になってから、戦前戦中を振り返って書かれたノンフィクションや自叙伝はたくさんあります。
 が、それらの中には、ある目的を持って意図的に話を膨らませてあったり、そのつもりはなくても無意識に戦後の価値観が入ってしまっていたり、というものが少なくありません。

 朴氏の日記はそうではなく、まさにリアルタイムの記述です。
 戦後歴史観のバイアスがかかっていない、貴重な一次資料です。

 読後、私なりに概要をざっくりまとめようと思ったのですが、Amazon掲載の出版社のコメントに、これ以上ないぐらい見事にまとめられていたので、引用させていただきます(^^ゞ

【著者の崔教授が研究の対象にしているのは、戦時中、日本軍占領地(ビルマ、シンガポール)で慰安所の帳場人をしていた朝鮮人、朴氏が残した日記である。この日記は、『日本軍慰安所管理人の日記』というタイトルですでに韓国で出版され、日本軍による朝鮮人女性強制連行の決定的資料だとされている。

 崔教授は戦後のバイアスのかかっていない日記原本にあたり、朴氏の足跡を尋ねて現地調査も行っている。
 崔教授のスタンスは明確だ。日韓の政治的な立場から意識して離れ、あくまで学術的に、日記から客観的な情報を、可能な限り引き出そうというものである。
 引き出された情報は慰安婦に関するものにとどまらない。
 崔教授は「日本植民地時代の朝鮮人の生活史を知る上で貴重なもの」とも述べている。

 この日記を精読した崔教授によれば、
 「そうした慰安婦の連行などに関する記述は一切ない」
 「『強制連行』に繋がるような言葉すらない」ということであった。
 そして、この日記が強制連行の証拠だという主張に対して、親日の日記を反日に利用するのは矛盾している、と指摘している。

 本書では「朝鮮人たちは当時、中国や東南アジアなどの日本軍占領地や前線地域で、食堂や慰安所などの商売を営んでいた。当地において朝鮮人は、ビルマ、シンガポール、インドネシアの東ティモールやスマトラ、マレーシア、タイ、ボルネオなどに広くネットワークを持っており、慰安業以外にも食堂、料理屋、餅屋、製菓所、豆腐屋、製油工場、写真館などを経営していた」という点も指摘されている。
 日本軍占領地で慰安所を含む経済活動に、多くの朝鮮人が事業主として重要な役割を担っていたのである。

 そして、この日記を書いた朴氏は、遠く離れた異国の地から、東方宮城に向かって遥拝し、皇軍の武運長久、戦没将兵の冥福を祈る、典型的な大日本帝国臣民であった。
 崔教授は「日記全体の文脈からは、彼が日本の帝国主義に不満を持ち、母国の独立を願う気持ちを持っていたとは、とうてい思えない」と述べている。
 戦後の日本人が教えられてきた「日本に虐げられた朝鮮人」の姿は、この日記には見られない。

 本書は、極めて客観的な姿勢で貫かれており、「慰安婦問題」まで生み出した戦後歴史観のバイアスの大きさを、日本人に気づかせてくれるものと言えよう。】

 戦時中とはいえ、一般人が日常生活を綴った日記です。
 私のように歴史に詳しくない人間が読んでいると、さらっと見過ごしてしまう記述も多い。
 それが崔教授の解説のおかげで、ポイントがいくつも浮かび上がってきます。

 たとえば、慰安所の売買の記述。
 慰安所は、軍政下で管理されている中でも売却ができました。
 慰安所が「事業所」であったことの証拠だと、崔教授は指摘しています。

 また、慰安婦は、手続きによって廃業、休業できました。
 朴氏の日記には、実名(源氏名?)とともに、誰が何名廃業したとか、誰が妊娠何ヶ月であるので休業届を提出した、という記述があります。

 慰安所が軍の命令に従わなかったこともありました。
 ある師団から、慰安所を別の場所に移転せよとの命令があり、部隊長が来て「行こう」というのだが、「慰安婦一同は絶対反対で、行けないといった」と。

 慰安所が軍の所轄や施設であったなら、こんなことはできなかったはずで、だからこそ慰安所の建物は民間のものであり、売買もできたのだという、崔教授の解説です。
 それ以前に、もし慰安婦が韓国や反日勢力が主張するような『性奴隷』であれば、慰安所の移転に反対を表明すること自体、全くあり得ない話ですよね。

 崔教授はこの本で、朴氏の日記と、元慰安婦の証言を付き合わせる作業もしています。
 たとえば、文玉珠という有名な元慰安婦がいますが(ネットでは郵便貯金簿の画像で有名?)、朴氏と文玉珠は、1942年7月10日に釜山港を出発した同じ船に乗っていたことが分かったそうです。

 やや余談ですが、実はこの時代、朝鮮人が日記を書くのはポピュラーではなかったとのこと。
 併合時代の日本の教育の一環で、日記をつけることが教育されたのだそうです。
 韓国で近代風の日記を書くようになったのは、朝鮮で日本の教育が定着していったからであろうと、崔教授は述べています。

 で、こちらは完全に余談ですが、朴氏の日記について拙ブログで以前、全く別の形で紹介したことが。
13/8/10:【これはひどい】慰安所従業員日記を発見した安秉直ソウル大名誉教授の“手柄”を高麗大学韓国史研究所の朴漢竜研究教授が横取り!?
 お時間のある方はどうぞ(^^ゞ

 それにしても、ハート出版さんは良い本をよく出してますね。
 「竹林はるか遠く―日本人少女ヨーコの戦争体験記」が代表的でしょうか(僭越ながら書評)。

 崔吉城教授の別の本も、ハート出版さんから出ていることに今回気づきました。
 「韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか―『中立派』文化人類学者による告発と弁明」
 機会があればこちらも読んでみたいと思います。

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