東亜大学東アジア文化研究所(崔吉城所長)は一六日、同大学で「慰安婦問題徹底討論」と題して研究会を開催した。本来、戦争中の女性の人権問題である朝鮮人従軍慰安婦問題が日本、韓国、さらにはアメリカから世界に広がり、大きく政治問題化している。今回は、朝鮮半島と日本の人民同士の不和・対立を煽る風潮を憂慮し、狭い民族主義を排して真の平和と正常な研究環境を願って人権活動家を招いて開催したもので、活発な論議がおこなわれた。
初めに、崔吉城教授がこの間の研究室での読書会や、著書・『韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか』をめぐる韓国でのバッシングや下関でのマスコミの冷淡な反応から、従軍慰安婦問題について語りにくく、研究してもその事実を発表しにくい状況にあることを明らかにした。そのうえで、「人権問題を政治的に扱って別の方向にもっていくナショナリズム」を批判。この討議でそのようになる根源に迫りたいと訴えた。
発議者として、山県順子氏(アムネスティ日本下関グループ運営担当)が、下関で判決が下った従軍慰安婦裁判(「関釜裁判」、一九九三年から九八年)にかかわり、朝鮮人従軍慰安婦の「過酷な性労働」の証言から学んだことや「加害責任に向きあうことが重要だ」と強調した。
討議では、日本軍の慰安所(ビルマやシンガポール)の管理人が書いていた日記を読んできた読書会の研究者から、当時の状況について「マスコミなどでいわれていることがすべてではない。たくましく生きていることが隙間みられる」「日本にも元従軍慰安婦がおり、沖縄や満州からの引き上げの時に性暴行を受けいるが、それを証言できないのは”加害者“であったという抑圧感があるからだ」という発言もあった。
また、「沖縄での米兵による女性暴行事件もある。もっと問題を整理して、本質を見きわめていこうと思う」「人権派の人だちと対立して討論しなければならないものなのか。どこでもあったということで歩み寄れないものか」「こういう対立ではなく韓国の人ともっと仲良くしたい」と相次ぎ、訴える場面もあつた。
崔吉城教授は、「朝鮮戦争における米軍の性暴行の事実がなぜ批判されないのか」と問題を提議したところ「親日派」と攻撃を受けたことや、「戦争ちゅいうと言ってもすべての軍隊が性暴行を犯すわけではない。中国の人民軍はまったくしなかった」ことを明らかにした。さらに、人権はフランス革命でたたかいとられたものだが、「戦争における人権問題や被害補償は、女性の性をとりあげてやるのが一番だ」というアメリカ的な発想が、韓国の儒教的な貞操観を利用して政治的に煽られている状況にも注意を喚起した。
さらに、平和時には反戦や人権を叫ぶが、戦争が迫ると口をつぐんたという歴史の反面に学び、政治的な制約やナショナリズムをこえて、ありのままの事実を明らかにするという研究者の立場を貫くことの重要性を確認した。