私が広島大学在職の時、主要な研究テーマはサハリンであった。戦前強制動員されてサハリンに定着した「朝鮮人」への調査であった。それが炭鉱の研究につながり、北海島から長崎まで広がった。福岡筑豊ではノンフィクション作家の林えいだい氏宅を数回訪ねてインタービューをし、ロシア語の裁判文書などの資料を大量にいただいて、他者に翻訳を頼み、分析し、『樺太朝鮮人の悲劇:サハリン朝鮮人の現在』(第一書房、2007)を出版した。私が下関に住むようになり訪れた時、彼は視力が弱くなっておられ、太い万年筆で原稿を書いておられた。調査、仕事に熱心な様子を見て、感嘆したことがある。その彼が亡くなられた。ご冥福を祈る。彼とは重要な点について一致した話がある。戦時中など無法、無秩序の危機の時、人々は判断力が低下し、危険な行動をする。そんな時、人はなぜ人を殺すのか、なぜ性暴行するか。関東大震災の記念日と彼の死を持って改めて思う。
↧