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Channel: 崔吉城との対話
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「おもてなし」(東洋経済日報、2016.11.11)

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 昨朝黄有福先生を、午後は李恵蘭牧師をそれぞれ家で迎えて関門海峡を眺めながらお茶話を楽しんだ。

「おもてなし」(東洋経済日報、2016.11.11寄稿文)

 私は韓国で生まれ育ったが適応不応な文化が二つある。それは飲酒文化と歌唱文化である。私は父親と同様に酒は飲まない。父がなぜ酒を飲まなかったのか聞いてみたことはないが私には理由がある。大学生になって酒とタバコをトライしてみた。味は知らないが格好良さへの試みであった。ある日私は友達に強い酒を勧められるがままに飲んで意識不明になり緊急入院したことがあり、それ以来酒には心身共にアレルギーがあり、宴席などを避けるようになった。そして社交性も薄れてしまい、職場で難しいことがあっても酒では和解するのができない。
 歌は中学生時代に失敗したこと、軍隊生活では命令に従い歌ってもうまく歌えず辛かったことが脳にインプットされたようである。多くのパーティーで歌うように強く勧められるので自然に私は早く引きあげる人になったが今では加齢によって勧められることもなくなった。そして日本に住むようになってその二つから完全に解放された。酒と歌が苦手であっても社交性がないとは言えない。私はお茶や食事を共にしながら対話をし、人とつきあうことは好きである。「もてなし」されるよりもするのが好きである。
 2020東京でオリンピックの確定宣言に出た「おもてなし」という標語が打ち出された場面は印象的であった。日本のもてなしとは何だろう。微笑とあいさつを指すように思われる。日本人から「もてなし」という言葉を聞くのは異様な感があるのは韓国や中国であろう。昔私が韓国に住んでいた時、日本から来られるお客さんに宿泊、食事などを提供すると韓国の友人は日本に訪ねて行ってもコーヒー一杯ご馳走してもらえないのになぜもてなすのかと何度も言われた。それはもてなしの文化の差を意味するに過ぎない。付き合いでお土産、贈り物などは日本の市場が大きいのは事実である。お歳暮やお中元などは韓国とは比べものにならない。もてなしは飲食接待文化である。
 韓国では1次(ビール)、2次(焼酎)、3次(ウィスキー)で行われ、意識不明の脱魂状態になることが多い。最近接待に関する法律が制定されて話題になった。韓国人の「虚礼虚式」の廃止のこの法律を推進した国民権益委員会の委員長の名前を取って「金英蘭法」とも呼ばれている。それは自由健全なロビー活動や人間関係への制約になるという反感がある。去年の接待費は10兆ウォンだったという。そこで接待文化を法律で縛る「不正請託及び金品授受の禁止関係法」が施行された。一回の食事費は3万ウォン、プレゼントは5万ウォン、慶弔費は10万ウォンを越えると贈収賄罪で処罰を受けることになる。日本植民地時代の宇垣一成総督の「儀礼準則」と朴正熙大統領の「家庭儀礼準則」を想起する。
 もてなしは社会の潤滑油として機能しており、モラルに任されるべきであるという意見が強く騒ぎになっている。一方もてなしのないドライな人間関係を作っていくのではないかという憂いもある。*写真黄先生と。


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