「人徳」とは何だろう。私を現職に紹介してくれた人が元同僚であった美学者金田晉氏である。先週大学創立記念パーティでもそれが話題になった。彼は多くの人を紹介したという。彼は同僚の縁から友人、恩人へとより親しくなっている。私も人を時々紹介や推薦をするがあまり感謝の言葉は聞いていない。むしろ裏切られるような感がある場合さえある。朴クネ氏に恩恵を受けた人が恨むようなことがあるのが世間である。金田氏と私、二人の差は何だろう。それは人徳の差ではないだろうか。彼は優しさと強さを同時に持っている。指導者タイプである。「環境ジャーナル」26.10.31の寄稿文、彼のエッセーをここに紹介する。
私の勤務している下関の東亜大学では、この秋10月からインターネットによる計15回の公開講座「ITによるアジア共同体教育の構築」(オムニバス形式)がはじまつた。大学の講義室で行われ、学生たちはこの講義を聴講し、試験に合格すれば単位取得できる。この講座の特色は、日本だけでなく、台湾、中国、韓国の大学教授を講師陣に加えていることである。かれらは下関の大学で講義するが、その講義がそのままインターネットによって、ライヴで日本と当該3国に配信される。それぞれの国で受信できる環境が整っていて、講義を聞いて質疑応答ができるようになっている。今のところ、講義は日本語で行われ、他国語での講義、質問は同時通訳が必要に応じてつけられる。今年から3年つづく。主宰は、広島大学名誉教授、今東亜大学で文化人類学(現代東アジア)を教える崔吉城教授である。この公開講座を支援しているのは、ワンアジア財団(本部・東京)である。
この公開講座は画期的な実験だと、私は思っている。それぞれの拠点にパソコンが設置されて、ネットワークにつながっていればよい。特別の巨大設備に投資する必要がない。今はまだ限られた大学間のネットワークにとどまっているが、今後はネットの基地が4か国を越えて増えてゆくであろう。
私は、この講座でも「暦」の話をするつもりである。19世紀以降、東アジアは西欧化の波に洗われ、太陽暦の一、グレゴリオ暦に一元化されていった。日本は極端にそうである。だが東アジアはその風土から考えて太陰太陽暦が相応しい。私は年来、バイカレンダーを主張している。「世界は一つ」で太陽暦を、「(東)アジアは一つ」で、太陰太陽暦を。
ネットワーク授業で、アジア各国の民衆が暦をどう生きているか、情報を交換できるのがたのしみである。インターネットの時代、私たちはヴィザなしで学問や情報を交換できる。国境をこえて、生きる知識が広がってゆくであろう。金田晉(東亜大学大学院特任教授・広島大学名誉教授)